乳首トラブルにラップは貼らないで!

当院では母乳分泌不足だけではなく、乳房のトラブルや乳首のトラブルなどでも来院されます。
乳首トラブルは白斑や乳頭亀裂、水泡などですが、来院される方の多くはワセリン・馬油・ランシノーなどの保湿剤を塗ってラップを貼っておられます。

「乳首の先が痛くて授乳が辛いです。薬を塗ってラップを貼っていますが、なかなか治りません。どうすれば治りますか?」といった相談が多いです。

傷にワセリンなどの保湿剤を塗りラップなどを貼って傷の治癒を促す療法はあります。
あまり重症ではない傷や火傷などに効果がありますが、乳首の傷などには適しません。

なぜかというと皮膚が違うからです。

乳首の皮膚と手足や背中・腹部の皮膚との大きな違いは「乳首の皮膚は排乳口という母乳が出る穴が開いている皮膚である」ということです。

母乳は赤ちゃんが飲んでいない時も分泌されますので、ラップを貼ってしまうと母乳が外に排出されなくなりラップの中に長時間とどまります。
母乳は糖質をたっぷり含んでいて栄養豊富ですので、雑菌のエサになってしまうために傷が治りにくいと考えられます。

当院では、乳首のトラブルで来院された方に次のようにお伝えしております。

①傷から浸出液(汁)が出ている場合

保湿剤を薄く塗ってガーゼなどを貼りブラジャーなどをつける

②傷から浸出液(汁)が出ていない場合

保湿剤を薄く塗ってブラジャーなどをつける

「薄く塗る」理由は、たっぷり塗ると母乳の排出を妨げやすくなるからです。

また、乳首の傷を治すには保湿剤を塗るだけではなくて、

授乳方法を見直す事がとても大切です。

例えば、乳首や乳輪部が硬いままで授乳すると赤ちゃんは乳首の先っぽをくわえてしまいがちです。
乳首の先っぽを吸われると大変痛いだけでなく乳首のトラブルは治りにくくなります。

どうすれば良いかと言うと、授乳前に手で搾乳すると良いです。

搾乳すると乳首の先と乳輪部が柔らかくなりますので赤ちゃんは深くくわえやすいです。深くくわえた方が痛くないですし乳首トラブルは治りやすいです。

また、授乳の抱き方と飲ませる時間 (左右の乳房の交代のタイミング)
もとても重要です。

以上のように、乳首にトラブルのある時は、保湿剤を薄く塗ってラップを貼らないで授乳方法を見直すことで治りやすくなります。

※1) 授乳の抱き方についてはこちらをご参照ください。

※2) 飲ませる時間(左右乳房の交代のタイミング)についてはこちらをご参照ください。

手での搾乳方法についてはまたお話しますね。

 

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授乳の抱き方

当院に来院されるほとんどのママたちは、母乳育児を望んでいるけれども思うようにいかないという事でいらっしゃいます。

母乳の出が悪い、赤ちゃんがおっぱいに吸いつけない、おっぱいの先が痛い、シコリが出来て痛いなどのご相談が多いです。

母乳育児がうまくいかない最も多い原因の一つが「授乳時の赤ちゃんの抱き方」です。
「授乳時の赤ちゃんの抱き方」は、おっぱいトラブル・分泌不足などと密接な関係があります。

数年前から、当院に来られるママたちの授乳の時の抱き方は、ご自分のお腹と赤ちゃんのお腹を密着させてらっしゃる方が多いです。

多いというよりほとんどの方がそのように授乳しておられます。
「赤ちゃんの身体を自分の身体にベルトみたいに巻きつけるようにして抱いています。」という方もいらっしゃってびっくりします。

「赤ちゃんに母乳をたくさん飲ませたい」「しっかり吸わせたい」という思いでそのように授乳しておられるのだと思います。

けれども、当院に来院される方々の乳房の状態、赤ちゃんの飲む様子を拝見していると、ママのお腹と赤ちゃんのお腹は密着させすぎない方が良いのではないかと思います。

●おっぱいをたくさん飲めないことがあります

「お腹とお腹を密着させて授乳する」と、赤ちゃんの顔はうつむきがちになります。
うつむいてしまうと、口を大きく開ける事が出来ません。大きい口を開けられないので、ママの乳首を深くくわえることが出来なくなります。そのため、乳首の先の方を吸ってしまいます。
(私たち大人も上を向いた方が口を大きく開けられますし、飲み物を飲む時もちょっと上を向いて飲みますね。うつむくと飲みにくいです。)

乳首の先は吸っても母乳はあまり出ません。母乳が出る所は乳首の先よりももう少し奥の方にあります。
赤ちゃんはあまり出ない乳首の先を吸うので、お腹がいっぱいにならないため頻回に欲しがって泣くことが多くなり、ママも睡眠不足になって疲れがたまっていきます。

●呼吸がしにくいことがあります

赤ちゃんの鼻の穴がママの乳房にくっついてしまうため、呼吸しにくくなります。
(赤ちゃんの鼻が乳房にくっつかないように指で乳房を押さえて空気が入る隙間を作ってあげているママも多いですが、ずっと指で押さえているのはけっこう大変です。)
 「赤ちゃんが乳首を嫌がり、のけぞって飲みません」という相談は多いのですが、赤ちゃんが呼吸しやすいように抱き方をちょっと変えるだけで、嫌がらずに飲めるようになる事はよくあります。

●おっぱいトラブルとの関係

赤ちゃんは大きな口を開けにくいので乳首の先を吸いがちです。
そのため乳頭の先に負担がかかって、乳首の亀裂や白斑が出来ることがあります。
乳首の亀裂や白斑はとても痛いです。
痛いだけではなく、このような状態が続くと、おっぱいが出る穴(排乳口)が傷んで狭くなり詰まりやすくなります。
完全に詰まってしまうと母乳がスムースに出なくなるため、乳房内に母乳がたまって張って痛くなったり、部分的に固まってシコリのような状態になることもあります。
また、それだけではなく、赤ちゃんの顔がうつむくために、

赤ちゃんの上の歯茎がお母さんの「乳首の上の付け根」に当たる事があります。

赤ちゃんといえども歯茎は硬いです。硬い歯茎が当たった状態で赤ちゃんに吸われると「乳首がはさまれている」「噛まれている」ような感じがしてとても痛いです。

赤ちゃんがママの乳首をくわえているイラスト。歯茎が当たっている。

このような状態が長期間続くと、乳首の上の付け根に亀裂が出来て出血することもあります。この状態を「乳頸亀裂」と言います。もちろんとても痛いです。

授乳のたびに痛みにさいなまれる事は、母乳育児を望んでいるママたちの心を折ってしまうこともあります。
「授乳する度にものすごく痛くて辛いです。」
「赤ちゃんがお腹を空かせて泣いている口を見ると恐怖を感じます。」というママたちは多いです。

以前いらっしゃったママは痛みに耐えるために、ご自分の太ももを指で思いきりつねりながら授乳しておられました。「つねっていると乳首の痛みがまぎれるんです。」と。
その方の太ももには青あざが出来ていました。

耐えがたい痛みが続くため「母乳育児は諦めてミルクにしたいので母乳を止めてください。」と来院される方もいらっしゃいます。

●肩、背中、腕がしんどい

授乳の間中、赤ちゃんのお腹を自分のお腹に密着するには、それなりの力を要しますし、かなり前かがみな姿勢になりがちです。

●ママと赤ちゃんの視線が合いにくい

お腹とお腹を密着させて抱っこすると、赤ちゃんの顔はお母さんの腕の向こう側を向いてしまいます。そのためお母さんと赤ちゃんとは視線が合いにくくなります。

生まれたての赤ちゃんは授乳中目を閉じている事が多いですが、日が経つにつれて眼を開けて飲むようになってきます。

赤ちゃんがおっぱいを飲みながら目を開けた時、「お母さんがいない、、、。」「誰もいない、、、。」って。寂しくないですか? 見えるのは、お母さんの腕やお母さんの服、あるいはお母さんの腕越しに見えるお部屋の様子。。。

お腹の中では、お母さんの心臓の音、お母さんが話したり歩いたりした時の振動、お母さんの息づかいを感じていたのに。
お母さんに抱っこされておっぱいを飲んでいるはずなのに、赤ちゃんの視線の先には、お母さんはいないんです。

ママたちも授乳の時は赤ちゃんと視線が合うものだと周囲の人たちから聞いているので、何とか目を合わそうとしてらっしゃいます。けれども、どうしても目が合わないし、そのうちに手持ち無沙汰なのでついついスマホを見てしまうという方も多いのではないでしょうか?

でも、赤ちゃんがご自分の目をじっと見つめながらおっぱいを飲んでいたら、可愛くてスマホを触る気にならないんじゃないかな?と思います。

また、可愛いだけではなくて、おっぱいを飲みながら赤ちゃんがお母さんの顔、表情を見る事はとても意味があります。

黒川氏は、「授乳中、赤ちゃんの口角周辺の筋肉は、三次元的に微細に動いている。
このため、お母さんの表情筋を読み取って、自分の表情筋に伝えやすいのである。ミラーニューロンが最も有効に使われる時間と言っても過言ではない。
その授乳中、お母さんが赤ちゃんに意識を集中し、目を合わせたり、微笑んだり、話しかけたりすることが、ことばとコミュニケーションの認識フレームを作り出す。共感力の要になるのである。」※1
と述べています

赤ちゃんはママの表情の動きを鏡のように写し取って言葉を獲得するだけでなく、共感力も育んでゆくのですね。
授乳の時間は、赤ちゃんにとってもママにとっても期間限定の貴重なひとときです。お互いの目を見つめながら授乳出来たらとても幸せな気持ちになれるでしょう。

●どのように抱っこしたら良いのか?

乳房が大きめなママの場合

下のイラストのように、赤ちゃんの背中、お尻をママの膝(あるいは授乳クッション)の上において、赤ちゃんの顔をママが見えるように仰向けます。ママを見上げる感じです。

(注)写真は左手で赤ちゃんの頭と首、背中を支えていますが、クッションなしで写真のように抱くと首に負担がかかります。このように抱く時は赤ちゃんの頭と身体をクッションに乗せるようにしましょう。

このように抱っこすると赤ちゃんは口を大きく開ける事が出来ます。
赤ちゃんの鼻が乳房にくっつくこともないので楽に呼吸しながら母乳を飲めます。もちろん赤ちゃんの歯茎がママの乳首の付け根に当たらないので痛くありません。
また、赤ちゃんが生まれて間もない頃は、上の写真のようにママの手で乳房を少し持ち上げてあげると、赤ちゃんの口に乳房の重みがかからないので疲れにくく、下アゴも動かしやすくなります。

赤ちゃんがママの乳首をくわえているイラスト。歯茎は当たっていない。

乳房が小さめなママの場合

乳房が小さめなママがこのように抱くと乳首の位置が遠いため、赤ちゃんの首は乳首の方にねじる形になり首に負担がかかります。
そこで、赤ちゃんの全身ををママのお腹の方へやや傾けるようにして抱きます。

●乳首を赤ちゃんの口に入れる時のコツ

赤ちゃんの口より上に乳首をもってくる

乳房を手で下から支えて、乳首を赤ちゃんの口より上にします。
どうしてかと言うと、例えば「パン食い競争」でパンをくわえる時、自分の口より上にあるパンと下にあるパンではどちらがくわえやすいでしょうか?大きな口を開けられるので上にあるパンがくわえやすいですね。
(最近はパン食い競争ってあまり見かけないですが)

パン食い競争のイラスト

赤ちゃんの支え方

多くのママたちは「赤ちゃんの頭に手を当てて、乳首に引き寄せる」と思っていらっしゃいますが、そうすると赤ちゃんの顔はうつむいてしまい大きな口が開けられません。
↓ママの親指と赤ちゃんの耳に注目!

では、どうすれば良いかと言うと

赤ちゃんの背中とお尻に腕の内側を当てて、赤ちゃんの頭の下部と首と背中の上部(肩甲骨のあたり)に手を当てそっと乳首に引き寄せます。
↓ママの親指と赤ちゃんの耳に注目!

このようにすると赤ちゃんの顔は上を向きますので、大きな口を開ける事が出来て乳首をくわえやすいです。また、ママの顔もよく見えます。

写真の赤丸印のようにご自身の親指の位置を意識すると良いです。
また、この写真では右の乳房を授乳する時に左腕で抱いていますが、授乳に慣れていない時はこの抱き方がくわえさせやすいです。慣れてきたら途中で右腕に替えれば良いでしょう。

以上で飲ませ方のお話は終わりです。
皆さまの参考になれば幸いです

※出産したばかりの頃はママの乳頭・乳輪部は硬い事が多いので、授乳前に手で搾乳するとくわえさせやすいです。
搾乳の方法についてはまた改めてお話します。

※1黒川伊保子:共感障害.新潮社, p195- p196,2019年


私が抱っこしたら赤ちゃん大泣き

先日、相談室にいらっしゃったお母さんは、普通分娩の予定でしたが、急きょ、緊急帝王切開で出産となりました。赤ちゃんは状態が思わしくなく治療のため、お母さんと離れてNICUに入院しました。
直接授乳が出来ないため、お母さんは母乳を搾乳してNICUに運んでおられました。

2週間後、赤ちゃんが退院して直接授乳を試みたところ、哺乳瓶の乳首に慣れてしまったのか、お母さんのおっぱいを嫌がって大泣きするという状態が続きました。赤ちゃんに直接おっぱいを吸って欲しいという事で当院に来院されました。

乳房は、さほど深刻な状態ではなく、時間はかかるかもしれないけれど直接授乳は可能と思われました。自分で出来る乳房のケアや直接授乳の方法などについてお話しました。

帰り際に、お母さんが「実は、赤ちゃんが自分以外の人(実母・夫・親戚の人など)に抱っこされている時は泣かないのに、私が抱っこすると大泣きするんです。私のことをお母さんと認識していないのかと思って悲しくなります。 
帝王切開での出産だったし、直接授乳出来ていないし、母親らしい事をこの子に何一つしてやれていないし。」と涙を浮かべておっしゃいました。

私は、帝王切開だからとか、直接授乳が出来ないとかには関係なく、生まれて間もない赤ちゃんは「お母さん以外の人に抱かれると大人しくて、お母さんに抱かれると泣く事があるんですよ。そのような事で心を痛めているのはあなただけではないんですよ。」と言いました。

このようなことは、2〜3ヶ月くらいまでの赤ちゃんによくみられます。赤ちゃんはお母さんが誰かということはちゃんとわかっています。わかっているからお母さんが抱くと泣くことがあるのです。

どういうことかと言うと、小さい赤ちゃんはお母さん以外の人に抱っこされたり、かまわれたりすると、「この人は誰かな?何かされるのかな?ちょっと怖いから今は黙っていた方が良さそうだぞ。」というふうに思って、緊張して身を硬くします。この様子が大人の私たちからは、おとなしくしているように見えるのです。(私たちでも自分より身体の大きな人に、いきなり大きな声で話しかけられたり抱きつかれたりしたら、ビックリしますし怖いですよね。身動き出来ずに固まってしまって声も出せない事もあるでしょう。)

実家や自宅などでお母さんが赤ちゃんを抱っこしても泣きやまない時に、夫や実母らが抱っこすると、とたんに泣きやむ事が多いです。
お母さんはその様子を見てショックを受けます。 そしてこう思います。
「私の抱っこが嫌なのかな?実母や義母は育児経験があるし抱っこの仕方が上手だから?でも夫は抱っこは上手じゃないのに、何で?」
「私のことお母さんって思っていないの?赤ちゃんを泣きやませられない私ってお母さん失格?」と思って深く落ち込みます。

でも、赤ちゃんはお母さんは誰かという事はちゃんと分かっています。だって、長い間お腹の中で、お母さんの匂い・お母さんの息遣い・お母さんの足音をお腹の中で感じ取っていたのですから。

赤ちゃんはお母さんの事が大好きです。一番安心出来る人なのです。赤ちゃんは、お母さんに抱っこしてもらっていると安心して自分の気持ちを表現出来ます。お母さんに対しては泣きたいときは思いきり泣けるのです。甘えてわがままが言えるのでしょうね。だから、落ち込まなくてもいいのです。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は 笑う赤ちゃん2-1024x690.jpg です

そして、この「お母さんが抱っこすると泣く」という事は、いつまでも続きません。
そのうち、「お母さんが抱っこすると泣きやむ」ようになります。 大人たちはそれを「人見知りが始まった」と言いますが、「人見知り」はもっと早い時期、生まれたての頃にすでにしているんですよ。

このことで悩んでいるお母さん方は多いです。私の相談室ではよく聞きます。 でもこのような悩みがあるという事はあまり知られていないようです。 
それはなぜなのか?
こんなことで悩んでいるのは自分だけかなあと思ってしまったり、誰かにうちあけても「そんな事初めて聞いたわ」などと言われたら余計に落ちこんでしまうので、相談出来ないからかなと思います。

私の相談室にやって来る小さい赤ちゃんたちは最初のうちは私のことを警戒しているのかあまり泣きません。でも、何回か来るうちに家と同じようによく泣くようになってくることが多いです。安心してくれているのかな?と思ってちょっと嬉しくなるんですよ。

だから、赤ちゃんに泣かれても気にせずに自信を持って抱っこしてくださいね。

☆このブログの文章を動画にしています。↓↓↓
https://youtu.be/s1dD0BRV37w
ご興味のある方はどうぞご覧ください。