乳腺炎や白斑ではないのに乳房がズキズキ(チクチク)と痛い

乳腺炎症状はなくて白斑もないけれど「おっぱい全体がズキズキ(チクチク)と痛くて辛い」という相談はとても多いです。
来院されたママたちに詳しくお聞きしますと、

どこが痛いのか?
「乳房全体が痛い」
「どこが痛いのかわからない」
「とにかく乳房のどこかが痛い」



いつ痛いのか?
「授乳前に痛い」
「授乳の後に痛い」
「授乳に関係なくずっと一日中乳房が痛い」

どのように痛いのか?
「乳房全体がズキズキする、チクチクする」
「乳房に電気が走るように痛い」
「乳首も痛いことがある」

乳房に硬い部分(シコリ)の有無は?
「乳房内に目立ったシコリは無い」ことが多い

発熱などはあるのか?
「発熱や乳房が熱いなどの症状は無い」ことが多い

このようにおっしゃる方が多いです。

当院では、乳房がズキズキ(チクチク)痛い原因と対処方法について以下のように考えております。

乳房がズキズキ(チクチク)と痛い原因

痛みを訴えて来院される方の乳房を拝見しますと、ほとんどの方は排乳口(母乳が出てくる穴)が傷んで細く(狭く)なっています。排乳口が細く(狭く)なると、どのような事が起こるのでしょうか?

排乳口とは乳管(母乳が流れてくる管)の出口です。出口が細くなっているという事は、乳管全体も細くなっていると考えられます。

タピオカのストローが乳酸菌飲料のストローのように細くなると想像してみると分かりやすいかもしれません。

乳管が細くなってしまうと、乳腺で作られた母乳が排乳口に向かって流れる時に、乳管の壁に圧力がかかります
圧力がかかると乳管周囲の神経などの組織が刺激されます。そのために痛みを生じるのではないかと思われます。

乳管が細く(狭く)なってしまう原因は何か?

それは、乳首に過度の負担がかかる授乳です。
乳首に負担がかかる授乳をするとなぜ排乳口が細くなるのかというと、

例えば、ストローを乳管(母乳が流れてくる管)とします。
ストローの片方を手のひらにつけた状態でストローを強く吸うと、どうなるでしょうか?

ストローはへしゃげてしまってストローの口は細くなりますね。
赤ちゃんに乳首を吸わせ過ぎると、これと同じようなことが乳管にもおこるのではないかと思います。

では、どうすれば痛くなくなるのか?

それは、次のような乳首に負担のかかる授乳を避ける事です。

 ①長時間同じ乳首を吸わせ過ぎる
 ②頻回に吸わせすぎる
 ③おしゃぶりのように吸わせる
 ④乳輪が硬いまま吸わせる

①長時間吸わせ過ぎる

赤ちゃんが吸う様子を観察していると、「あまり吸っていないな」「寝てしまいそうだな」と思うことがあるでしょう?

そのような時は、もう一方の乳房に交代するようにしましょう。
交代すると今まで吸わせていた乳首を休ませる事が出来ます。

10分ずつなど時間を測って授乳する方が多いですが、その時の赤ちゃんの様子に応じて左右乳房を交代して乳首を休めた方が負担はかかりにくいです。

②頻回に吸わせすぎる

「泣いたら吸わせてあげましょう。」とよく言われますが、吸わせる以外の事もしてみましょう。
抱っこしてあやすとか他のお部屋に行くとか。


また、赤ちゃんはお腹が張っているときはよく泣きます。そんな時はママの手で赤ちゃんのお腹を温めるなどもしてみましょう。

赤ちゃんのお腹の張りと泣く事については下記に詳しく書いております。
おっぱいを飲むときむせる

③おしゃぶりのように吸わせない

赤ちゃんはママに抱っこされて乳首を吸っていると安心します。とても幸せそうです。

出来ればずっとそうしてあげたいと思うでしょうが、あまりに長時間だとママの乳首に負担がかかります。

赤ちゃんが寝入るまで乳首をおしゃぶりのように吸わせすぎないように心がけた方が良いです。

④乳輪が硬いまま吸わせない

乳輪が硬いときは赤ちゃんの舌が滑ってしまって深く吸い付けません。そのため乳首の先を吸ってしまいがちです。

それが長く続くと乳首に負担がかかってしまいますし耐え難い痛みが生じます。

授乳する時に乳輪や乳首が硬いなと思ったら、指で少し搾乳してから飲ませた方が良いです。


以上の事を心がけると乳房の痛みは軽減しやすいです。


また、授乳の抱き方なども大事なポイントです。以下もご覧になってください。

参考になれば幸いです。

授乳の抱き方
赤ちゃんの口に乳輪が全部入らないとダメなの?
赤ちゃんが乳首を浅く吸う

カン違い助産師だった私

私の恩師 桶谷そとみ先生(桶谷式乳房管理法の創始者)と出会った時の事を書いた文章です。

この当時私は助産師になって3年目の25歳。

今思えば自信過剰の「カン違い」助産師でした。

この文章を書いてから40年以上経ちますが、今も時々読み返します。

長い文章ですが、良かったら読んでください。

※文中の「手技」とは乳房マッサージの事です。


「ピシッ!」手の甲に痛みが走りました。と同時に桶谷先生の「帰れーっ!」という怒りに満ちた声が診察室中に響きわたりました。

呆然と立ちつくす私。「そんなものは手技ではない。そんな触り方をする者には教えたくない!帰れ!」

その場にいたたまれず、新家(桶谷先生宅の最寄り駅)の駅までの道を泣きながら走って帰ったあの日。
1981年2月。春から始まる桶谷先生のもとでの研修を前に、先生宅へあいさつに伺った時の出来事です。

当時、私は勤務していた病院で、桶谷式を学んだ先輩の手技を見よう見まねでお母さん方に行っていました。

そんな「手技」でも今までの乳房マッサージよりは痛みなどはあまりなく効果もあるようで、お母さん方に喜ばれていた(と思っていた)ので、自分の手技はいいセンいっていると信じていたのです。

そんな私ですから、先生から「一度やってみなさい。」と促された時、自信満々で手技(?)をし、その結果、先生の怒りを買ってしまいました。

人前で叱られた恥ずかしさ、傲慢だった自分への怒り、先生への申し訳なさ、いろいろな感情が一気にこみ上げてきて、電車の中でも涙が止まらなかったあの日。

自分の手技の未熟さを恥じました。そして、それ以上に自分の貧しい心を恥じました。
先生は私の手技の未熟さだけでなく、乳房を大切に扱う心が足りない私に怒りを覚えられたのだと思います。

桶谷先生のもとで、心と手をたたき直したいと切実に願いました。
翌日、一から出直そうと決心し桶谷先生に謝罪し、幸いにも入門を許されました。

先生宅の敷居は二度とまたがせてもらえないと思っていただけに、うれしくて、うれしくて、また涙が出ました。

 私の人生の転機となった桶谷先生との出会い。
先生と出会わなかったら、「自信過剰なカン違い助産師」となって、多くの方々に多大なご迷惑をおかけしていたことでしょう。

研修を終えて月日は経ちましたが、あの時の手の甲の痛みを忘れることなく、自分の手技と心を振り返る余裕を持ち続けたいと思います。

そして、悩んでおられるお母さん方のおっぱいも心もふんわり軽くなるような相談室でありたいと願っています。


助産師としての経験年数が増えて年を重ねるにしたがって、この時の桶谷先生のように私の至らないところを指摘して叱ってくれる人はいなくなってきます。

年上の人に、「それはおかしいですよ」とはなかなか言いづらいものですよね。
私にも覚えがあります。

だから、気づかないうちにまた「カン違い助産師」になってしまわないように、私はこの文章を何度も読み返すのです。

赤ちゃんたちとの再会

当院は来年、助産院(母乳育児相談室)開設40周年をむかえます。

開設当初は、1年くらい続けられたら良いかなくらいに思っていました。

と言いますのは、私は子どもの頃から何をしても長続きせず、習い事もクラブ活動もすぐにやめてしまって先生や親からいつも呆れられていました。
「卓球」「バレーボール」「テニス」「茶道」「華道」などなど。多くのクラブを渡り歩いていました。

そんな私ですから、助産院もそう長くは続かないだろうと思っていたのですが、40年も続けられた事に自分でもびっくりしています。

こんなに長く続けられたのは、私の性分に合っていたからなのかなと思います。

と言いますのは、私は協調性というものが乏しくて大勢の人と一緒に何かをするという事が苦手な方で、病院のような大きな組織で働くことよりも、一人でも出来る小規模な助産院(母乳育児相談室)の仕事の方が自分には合っていたようです。

さて、20年くらい前から、当時赤ちゃんだった方にお子さんが生まれて来院される事が増えてきました。
赤ちゃんだった方が赤ちゃんを抱っこして、お母さんやパパさんと一緒に来院されます。
ひととき、昔話に花が咲きます。
よく泣かれて困った事、おっぱいトラブルで悩んだ事、嫁姑問題で悩んでいた事などなど。
とても懐かしくて楽しいひとときです。


先日、そのような方が何人くらい来院されているのかなと思って数えてみたところ、実のお母さんもしくは義理の母さんが当院に来られていた方は、今年は約10人にお1人でした。
こんなに沢山の方が私の事を覚えていて下さったのかと思うと、本当に嬉しく思います。

また、先日、来られた方はパパさんもママさんも赤ちゃんの頃に当院に来られていたそうです。
出産後に母乳育児の話題になった時に、パパのお母さんもママのお母さんも同時期に当院に通っていたという事が分かったとの事。



もしかしたら赤ちゃんの頃にお二人は、井田助産院で出会っていたのかもしれないとおっしゃってました。
「一緒に遊んだりしていたのかな?」と思うと、とってもロマンチックですね。

これからもどんな出会いと再会があるのかなと思うと、とても楽しみです。
来年はどんな年になるのかな?


おっぱいの先が痛くて下着をつけられない時

乳頭亀裂・水疱・白斑などがある時、乳首にブラジャーやおっぱいパッドなどが触れると痛くて辛いというママさんはとても多いです。

以前、「乳首の先が切れて痛い」というママさんから電話相談があり、来院をおすすめしたところ「そちらに行きたと思っているんですが服を着れないから行けないんです。」とおっしゃってびっくりした事があります。

乳首にブラジャーやパッドなどが触れると飛び上がるほど痛いので、自宅では上半身は何も身につけないで過ごしているとの事。

結局、服を手で持ち上げておっぱいの先に触れないようにしながら来院されました。

乳房ケアを行い授乳方法を見直すなどして乳首の傷は治りました。

おっぱいの先に亀裂や白斑が出来て痛い時はラップを貼るママさん方は多いです。

ラップが緩衝材になって痛みが少しはマシになるようですが、当院ではおすすめしていません。

なぜかと言うと、ラップを張ってしまうとラップと乳首の間に母乳や汗が溜まってしまうため、白斑や亀裂は治りにくくなるからです。

白斑や亀裂のある時は適度に空気に触れていた方が治りやすいです。

詳しくはこちらをご参照下さい。

では、どうしたら良いのかというと、

ガーゼのハンカチで「輪っか」を作って乳首に当てるという方法があります。

乳首と下着の間に隙間が出来るので痛みは少しは和らぐようです。

当院に来院されたママさんに教えてもらったのですが、作り方はとても簡単です。

どうぞ、お試し下さい。

赤ちゃんの口に乳輪が全部入らないとダメ?

「乳輪が全部赤ちゃんの口に入るように授乳しないといけない。」
「赤ちゃんの口から乳輪がはみ出ているから、『浅吸い』でちゃんと飲めていない。」
と思ってらっしゃるママさんは多いですが、乳輪全部を赤ちゃんの口に入れる必要はありませんし、入れようとしない方が良いです。

その理由は?

当たり前の事ですが、乳輪の大きさは個人差があります。

その直径は2㎝位から10㎝位とかなり幅があります。

赤ちゃんの口は小さいので、2~3㎝位の乳輪なら赤ちゃんのお口に入るでしょうが、それ以上の大きさならはみ出て当然です。

乳輪全部を赤ちゃんの口に入れようとする必要はないです。

乳輪部を全部赤ちゃんの口に入れようとすると、赤ちゃんの頭を押さえすぎてしまいがちです。

そうすると、赤ちゃんは下を向いてしまう(うつむいてしまう)ため口を大きく開けられません。

その結果、乳首の先を吸うようになります。

そのため授乳中に乳首が痛くなったり、白斑・亀裂・水疱などの乳首トラブルの原因になることが多いです。

また、赤ちゃんの鼻にママの乳房がくっついてしまって息がしにくくなるため、嫌がって吸い付かなくなる事もあります。

「おっぱいを吸うのを嫌がる」原因の一つです。

赤ちゃんの頭を押さえすぎないようにして顔を仰向けるようにするだけで、嫌がらずに飲める事が多いです。

具体的な授乳の方法についてはこちらをご参照ください。

「乳輪全部を赤ちゃんの口に入れようとする」よりも大事なことは?

授乳前に飲みやすい乳輪にしておくこと

乳輪が硬いまま授乳しようとすると、赤ちゃんの舌が滑ってしまうため乳首の先を吸いがちになります。

先を吸われると大変痛いですし、乳首トラブルを引き起こす事もあります。

授乳前に乳輪が硬い時は、ご自身の指で柔らかくなるくらい搾乳すると良いです。

「母乳の出が少ないから搾乳するなんてもったいない」と思うママもいらっしゃるでしょう。

けれども、搾乳して乳輪が柔らかくなった方が飲める量が増えやすいですので少しでも搾乳した方が良いです。

私は、長年この仕事をしておりますが、
「赤ちゃんの口から乳輪がはみ出てる。」事を気にしてらっしゃる方は、最近特に多くなったように思います。

ママたちに「何故、そう思うの?」と聞くと、「出産したところや友人から聞いた、ネットでもそのように書いてあった。」とおっしゃいます。

今は、周囲の人々からの様々なアドバイスだけでなく、ネットで調べれば沢山の情報を得る事が出来る世の中です。
何を選べば良いのか迷われる事も多いでしょう。

大事な事は、いろいろなアドバイスや情報が、自分と自分の赤ちゃんに合うのかどうかを「考える」事と「感じる」事だと思います。

ネットや本に書いてあっても、私たち助産師から聞いた事であっても、アドバイスどおりにやってみて

「しっくりこない時」は、ご自身と赤ちゃんに合うような方法を工夫してみる。
そのようにしていると、次第に応用する力がついてきますので、赤ちゃんや乳房の変化にも対応出来るようになってきます。
自信もついてくることでしょう。

もちろん、どのようにしたら良いのか分からない、工夫してみても上手くいかない、これで良いのかどうか不安な時などは、ネットで調べるのも一つの方法だけれど、私たち助産師を頼って下さいね。

参考になれば幸いです。

↓上記の内容をまとめたYouTube動画です。どうぞご覧ください。

https://youtu.be/piTeAWjqRc4