カン違い助産師だった私

私の恩師 桶谷そとみ先生(桶谷式乳房管理法の創始者)と出会った時の事を書いた文章です。

この当時私は助産師になって3年目の25歳。

今思えば自信過剰の「カン違い」助産師でした。

この文章を書いてから40年以上経ちますが、今も時々読み返します。

長い文章ですが、良かったら読んでください。

※文中の「手技」とは乳房マッサージの事です。


「ピシッ!」手の甲に痛みが走りました。と同時に桶谷先生の「帰れーっ!」という怒りに満ちた声が診察室中に響きわたりました。

呆然と立ちつくす私。「そんなものは手技ではない。そんな触り方をする者には教えたくない!帰れ!」

その場にいたたまれず、新家(桶谷先生宅の最寄り駅)の駅までの道を泣きながら走って帰ったあの日。
1981年2月。春から始まる桶谷先生のもとでの研修を前に、先生宅へあいさつに伺った時の出来事です。

当時、私は勤務していた病院で、桶谷式を学んだ先輩の手技を見よう見まねでお母さん方に行っていました。

そんな「手技」でも今までの乳房マッサージよりは痛みなどはあまりなく効果もあるようで、お母さん方に喜ばれていた(と思っていた)ので、自分の手技はいいセンいっていると信じていたのです。

そんな私ですから、先生から「一度やってみなさい。」と促された時、自信満々で手技(?)をし、その結果、先生の怒りを買ってしまいました。

人前で叱られた恥ずかしさ、傲慢だった自分への怒り、先生への申し訳なさ、いろいろな感情が一気にこみ上げてきて、電車の中でも涙が止まらなかったあの日。

自分の手技の未熟さを恥じました。そして、それ以上に自分の貧しい心を恥じました。
先生は私の手技の未熟さだけでなく、乳房を大切に扱う心が足りない私に怒りを覚えられたのだと思います。

桶谷先生のもとで、心と手をたたき直したいと切実に願いました。
翌日、一から出直そうと決心し桶谷先生に謝罪し、幸いにも入門を許されました。

先生宅の敷居は二度とまたがせてもらえないと思っていただけに、うれしくて、うれしくて、また涙が出ました。

 私の人生の転機となった桶谷先生との出会い。
先生と出会わなかったら、「自信過剰なカン違い助産師」となって、多くの方々に多大なご迷惑をおかけしていたことでしょう。

研修を終えて月日は経ちましたが、あの時の手の甲の痛みを忘れることなく、自分の手技と心を振り返る余裕を持ち続けたいと思います。

そして、悩んでおられるお母さん方のおっぱいも心もふんわり軽くなるような相談室でありたいと願っています。


助産師としての経験年数が増えて年を重ねるにしたがって、この時の桶谷先生のように私の至らないところを指摘して叱ってくれる人はいなくなってきます。

年上の人に、「それはおかしいですよ」とはなかなか言いづらいものですよね。
私にも覚えがあります。

だから、気づかないうちにまた「カン違い助産師」になってしまわないように、私はこの文章を何度も読み返すのです。

おっぱいを飲む時むせる

赤ちゃんは、おっぱいを飲む時に「むせる」事があります。

赤ちゃんがむせながら飲んでいる様子を見て「むせるほど母乳が出ているんだわ。」と良い事のように思っているママもいらっしゃいますが、出来るだけむせないで飲める方が良いです。

今回は、何故むせない方が良いのかについてお話します。

むせながらおっぱいを飲んでいる赤ちゃんの様子

むせている時の赤ちゃんはゴホゴホと咳き込んだり、呼吸もゼイゼイと苦しそうです。

ビックリして乳首を離して飲むのをやめてしまうこともあります。
おっぱいを飲む事がなんだか辛そうに見えます。

また、授乳後に仰向けに寝かせると、真っ赤なお顔で両手を挙げてきばる赤ちゃんが多いです。
そしてオナラをよくします。

それは、むせる時に母乳と一緒に空気も飲んでしまうからです。

空気を飲むとお腹が張ります。
お腹が張っている時に仰向けに寝るのはしんどいですから、きばってオナラを出そうとしているのでしょう。

オナラと一緒に「ちょびっとウンチ」をする事も多いですので、オムツかぶれにもなりやすいです。オムツ替えの回数が増えるのでオムツ代もかさみます。

むせる原因は?

母乳が出過ぎている場合は赤ちゃんはむせやすいですが、それほど出過ぎていないけれどむせる事はよくあります。
なぜむせるのかと言うと、
「おっぱいが噴射するように赤ちゃんの口の中に勢いよく流れ込むから」です。
つまり、おっぱいの勢いが強すぎて赤ちゃんが自分のペースで飲めない時にむせるのです。

逆に、「おっぱいが噴射せずに赤ちゃんの口の中にゆっくりと流れ込む」と赤ちゃんは自分のペースで飲めるのでむせません。

大人の私たちで例えて言うと、
「ペットボトルの口から水やお茶が噴射して出る」と大人の私たちでもビックリしますし、むせるでしょう。
やはり飲み物は自分のペースで飲みたいですよね。

むせないように授乳するには?

授乳前に指で搾乳して母乳を少し捨てると良いです。

どのくらい搾乳すると良いかと言うと、
「乳輪部が少し柔らかくなるくらい」です。
搾乳すると母乳がすぐに噴き出すようでしたら、「噴き出すのが少し落ち着くくらい」です。



搾乳する事によって、おっぱいが噴射せずゆっくりと出るようになりやすいので、赤ちゃんは自分のペースで飲みやすくなります。

母乳不足かな?と悩んでおられるママにとっては、「捨てるなんてもったいない。」と思われるかもしれません。

その場合は哺乳瓶に搾乳して、授乳した後に飲ませると良いですね。

★搾乳する時の注意点があります。
それは「力を入れすぎないこと」です。
痛みを感じるほど力を入れると、乳輪部が腫れてしまうことがあります。

また、母乳が出過ぎる方の場合は「ゆっくりとしたスピードで搾乳すること」です。
早いスピードで搾乳すると、刺激が強すぎてよけいに分泌が増えてしまったり、乳房が張りすぎることがあります。
童謡「ゆりかごの歌」のテンポより少しゆっくりくらいです。

♪ゆりかごの歌をカナリヤが歌うよ。ねんねこねんねこねんねこよ。♪


授乳中に赤ちゃんが眠ってしまわないようにする

何故眠ってしまわない方が良いかと言うと、
赤ちゃんがママの乳首を吸うと、その刺激を受けて母乳が作られて出てきます。(射乳といいます)
赤ちゃんが起きている時は、母乳が出てきてもあまりむせずに飲みます。

けれども、ママの乳首をくわえてウトウト眠っている時の赤ちゃんは無防備です。急に口の中に母乳が流れ込んで来ると、すぐに飲み込む事が出来ない為むせるのです。

授乳中は出来るだけ眠ってしまわないようにした方が良いです。
その方法についてはこちらを参考になさって下さい。
https://ida-josanin.com/sp/2019/05/26/lactational-method-time/

赤ちゃんが飲みやすい抱き方も大事です

それは、「大きい口を開けやすい」「舌を前に出しやすい」「呼吸がしやすい」 抱き方です。
その方法についてはこちらを参考になさって下さい。
https://ida-josanin.com/sp/2019/07/31/lactational-alette

むせた時はどうしたら良いの?

むせたら、赤ちゃんの身体を起こして縦抱きにしてゲップを出すときの体勢にしましょう。

ゲップが出ないときは、しばらく抱っこして赤ちゃんが落ち着いてきたら授乳を再開してみましょう。

以上の事をやってみても効果がないときは?

以上の事をやってみても、むせる・お腹の張り・いきみなどが改善しない場合は、稀に病気の事もありますので、小児科医師に相談してください。

ママ友

以前は、当院に来院されたママさん同士がお話する機会も多く、それがきっかけでママ友になり、子どもが大きくなってもお付き合いが続いてらっしゃる方も珍しくありませんでした。

けれども、コロナ禍の今、「密を防ぐ」ために来院される方が同じ時間帯に重ならないように予約時間を調整していますので、ママたちの交流はほとんどなくなってしまいました。

それでも、たまに重なる時があって、ママさん同士が短時間でも言葉を交わされると

「赤ちゃんのいるママと初めて話せました」
「私と同じような事で悩んでいる方がいると分かって何だか安心しました。」
「私以外のママたちもしんどいのだなって思えました。」

ママたちを見ていると、とても嬉しそうです。
赤ちゃんたちもお互いに不思議そうに見ていています。
なんとも言えない和やかな雰囲気になります。
やっぱり、こういうちょっとした触れ合いは大事ですね。

感染対策しつつ、少しでも交流出来るように考えていこうと思います。

研修生

3年ほど前から年に1回、北海道は札幌市から助産師の方が当院に研修に来られます。
最初、私は何かの用事のついでにいらっしゃるのかと思っていたのですが、当院での研修が目的との事。

それを聞いた時、とても驚き、身の引き締まる思いがしました。
彼女の貴重な時間を無駄にしてはいけないので、私も気合を入れて出迎えます。

先日も1年ぶりに大阪へ。当院には昼過ぎに到着。そして、翌日の午前中で研修を終えて空路北海道へ。
風のように去って行きました。
今回も、彼女から素敵なパワーをもらいました。

彼女を見ていると恩師の桶谷先生(桶谷式乳房治療手技の創始者)に初めて出会った時の事が思い出されます。
それは、40年くらい前、私が助産婦学校に入学してしばらくした頃でした。

同級生の友人がどこかから「富山県の高岡市という所にすごい乳房マッサージをする助産婦さんがいる(当時は助産師ではなく助産婦という名称でした)」と聞いて来ました。

私たちは「どんなマッサージなんだろう?」「すごいマッサージって?」と話し合っているうちに、「どんな乳房マッサージなのか見たいね。」という事になり、「桶谷先生のところに行って見学させてもらおう」という結論に達しました。

そして、桶谷先生のご自宅に電話をかけて見学させてほしいとお願いしたのです。

桶谷先生は、見ず知らずの助産婦学生の突然の申し出にもかかわらず、快く受け入れて下さいました。
そして、友人と二人で冬休みに何日かお世話になりました。

先生の軽やかで力強くて優しくて美しい手の動き、笑顔で心地良さそうに手技を受けるお母さま方。美味しそうにおっぱいを飲む赤ちゃんたち。全てが驚きと感動の連続でした。

その後、桶谷先生のところで勉強する機会に恵まれ現在に至っています。
私たちを受け入れて下さった先生の懐の深さに感謝の気持ちでいっぱいです。

私も、初めて出会った時の先生の年齢に近づいて来ました。
これからも先生から学んだ事を微力ながら若い世代に伝えていけたらと思っています。

インタビュー


先日、高校の放送部の生徒さんのインタビューを受けました。生徒さんお二人と引率の先生、そして当院を紹介してくれた助産師の方と一緒にいらっしゃいました。

生徒さんによると、地域で活動する「出産を扱わない助産院の助産師」に関心を持っているとの事でした。

業務内容、開業の動機、助産院をしていて良かったと思う事、今後どのような活動をしたいのかなど、たくさんの事を聞いてくれました。

助産師の仕事に興味を持ってくれた事が本当に嬉しくて、聞かれていない事まで先走ってしゃべってしまいました。2時間近く (^_^;)

母乳分泌のしくみ、授乳のこと、赤ちゃんのこと、卒乳のことまで。彼女たちはキラキラした瞳で真剣に耳をかたむけてくれました。
きっと、初めて聞く話だったと思います。

母乳のことって学校ではあまり習う機会がありません。
当院に来られるママたちの多くは「出産する前に、母乳はすぐには出ないという事や赤ちゃんはよく泣くっていう事などを知っておけば良かった。知っていたらもう少し気持ちが楽だったと思う。」とおっしゃいます。

性教育などで、産後の心身の変化や授乳のこと、赤ちゃんのことなどを伝えられたらなと思いました。また、やりたい事が増えそうです。

インタビューに来くれてありがとう!