授乳方法 謎の10分ずつ

当院にいらっしゃるママたちは、左右の乳房を10分ずつというように時間を測って授乳しておられる方が多いです。スマホのタイマーできっちり10分間測っておられる方も珍しくありません。授乳時間を測るアプリもママたちの間で普及しているようです。
この10分ずつというような時間を測っての授乳は母乳分泌不足、乳房トラブルにつながりやすいと私は思っています。

赤ちゃんは乳房にたまっている母乳を飲むだけではなく、授乳の途中で湧き出してくる母乳も飲みます。
赤ちゃんがママのおっぱいを吸うと、吸われた刺激がママの脳に伝わり、母乳を作るホルモンが分泌されて母乳が瞬間的に作られ湧き出してきます。この現象を「射乳」といいます。(乳房の機能が弱くなっている時は射乳は起きにくいです。)

射乳がおこると、母乳が出てくるので赤ちゃんはゴクゴクと飲みます。が、しばらくするとゴクゴク飲まなくなります。何故でしょうか?

それは母乳が出なくなるからです。
多くのママたちは「母乳は授乳している間(赤ちゃんがおっぱいをくわえている間)ずっと出続けている。」と思ってらっしゃいますが、ずっと母乳が出続けることはありません。射乳している間だけ出ます。

それは、どのくらいの時間かというと、個人差はありますが、だいたい60秒くらいまでです。あっと言う間に終わります。
射乳が終わると母乳は出なくなるので赤ちゃん飲むのを止めてしまいます。おっぱいの先をくわえたまま眠ってしまう赤ちゃんも多いです。ママはその様子を見て、「お腹がいっぱいになって寝たんだ。」と思ってベッドに寝かせます。

けれども、赤ちゃんは十分な量の母乳を飲んでいるわけではないのですぐ泣いて起きます。
「あっ!ウッカリ寝てしまったけど、ボク(ワタシ)まだお腹空いてるわ!」と気づくのですね。
泣いている赤ちゃんを見て、ママは「さっき飲ませたのになあ?、、、何故?、、」と思いつつまた授乳します。

そうしているうちに、

授乳する→
寝たのでベッドに寝かせる→
すぐに起きて大泣き →
授乳する →
寝たのでベッドに寝かせる→
すぐに起きて大泣き→
授乳する

という負のスパイラルに陥ってしまう事もあります。

これが続くとママのおっぱいの先は痛くなることが多いです。
また、痛いだけではなく、母乳が出る穴が傷ついて狭くなってしまうので、スムーズに出れなくなった母乳が乳房内に残りやすくなります。

その結果、乳房が全体的にあるいは部分的に張って痛い、白斑が出来て痛いなどのトラブルにつながってゆく事もあります。
また、乳房内に常に母乳が残ることで分泌量が減ってしまう事も多いです。

そうすると赤ちゃんは十分な量の母乳が飲めないので、ますます何回も起きて泣くという状態になりがちです。ママは寝る暇もなくおっぱいも痛いので、次第に心身ともに疲れきって「飲ませても飲ませても赤ちゃんが泣く!」「授乳が苦痛!」「授乳がしんどい!」
となってしまいます。

では、どうすれば良いのでしょうか?
赤ちゃんがゴクゴク飲むのを止めたらすぐにもう一方のおっぱいに交代すると良いのです。

射乳は左右のおっぱいに同時に起こります。例えば右のおっぱいを吸っている時に射乳が起こると左のおっぱいに射乳した母乳がたまっていきます。赤ちゃんが眠ってしまわないうちに左に交代すると、左のおっぱいには母乳があるので、すぐに飲む事が出来ます。

そして左を飲み終わると赤ちゃんはまた眠ってしまいそうになりますが、眠ってしまわないうちに右に交代します。交代しても眠ってしまいそうになったら、また左に交代します。

せわしない感じがしますが、このように「赤ちゃんに眠るスキを与えない」ように左右の乳房を交代して授乳するようにすると、
赤ちゃんは起きているのでおっぱいをしっかり吸います。
しっかり吸うので、もう一度射乳が起こりやすくなります。射乳が起こると母乳が湧き出て来るので赤ちゃんは眠ってしまわないで飲みます。

このように、右○分 左○分と決めてしまわないで、赤ちゃんの飲む様子を観察して左右を交代する方が射乳が起こりやすくなるので、一回の授乳で飲む量が増えていきやすいです。

交代のタイミングがわからないという場合は、赤ちゃんの飲む力が弱くなったら交代すると良いでしょう。
赤ちゃんが小さいうちはこのように授乳に手間暇がかかりますが、赤ちゃんが大きくなってくると飲む力もついてきますし授乳中あまり眠らないようになってきますので、こまめな交代は必要なくなってきます。

余談ですが、授乳の時はいつも「おかわり行くよ」と赤ちゃんに声をかけて左右を交代していたママさんがいらっしゃいました。
その赤ちゃんが3ヶ月くらいになった頃、ママが「おかわり行くよ」と声をかけると「ハイ、わかりました」という感じで飲むのをやめて交代してもらうのを待つようになりました。その様子が可愛くて可愛くて。赤ちゃんって本当に分かってるんだなぁと思った次第です。

体格、体質、乳房の形、乳房の大きさは人それぞれ違います。射乳の量・回数も人それぞれ違います。
射乳の一回の量が多くて回数が少ない、量は少ないけれど回数が多いとか様々です。

また、同じママでもお腹が空いているかどうか、喉が渇いているかどうか、緊張しているかリラックスしているか、などによっても射乳の量や回数は変化します。

赤ちゃんもいつも同じではありません。ウンチが大量に出た後は空腹だろうし、朝などは遊んでほしいからあまり飲まないとか、赤ちゃんにもいろいろ事情があります。

だから、時間を決めて時計やスマホを見ながら授乳するのではなく、赤ちゃんの様子を見ながら授乳する方が合理的と言えます。

授乳は「母乳を飲ませる」という事だけではないです。
赤ちゃんは、ママに見守られながら母乳を飲む方が安心だし嬉しいんじゃないかなと思います。
このように授乳しているとそのうちに赤ちゃんと視線が合うようになってきます。
お互いに見つめ合いながらの授乳はとても幸せなひと時ですね。

最後にミルクの補足についてですが、必要な量は足しましょう。
当院には「母乳だけで育てたい」と頻回な授乳で頑張っているママもよくいらっしゃいます。が、乳房の状態によってはミルクの補足が必要な方も多いです。必要な量が飲めないと赤ちゃんの成長にも影響します。

睡眠不足で疲れきっている時は母乳の分泌は少なくなりやすいですので、ミルクを補足して睡眠をとった方が良いです。

どのくらいのミルクを補足したらよいかどうかは乳房の状態・赤ちゃんの様子によって判断した方が良いので、可能であればお近くの母乳相談室を訪ねてみてください。

※ 最近は「赤ちゃんのお顔が見えるような授乳の抱っこ」が苦手な方も多いです。これについてはまた書きますね。

インタビュー


先日、高校の放送部の生徒さんのインタビューを受けました。生徒さんお二人と引率の先生、そして当院を紹介してくれた助産師の方と一緒にいらっしゃいました。

生徒さんによると、地域で活動する「出産を扱わない助産院の助産師」に関心を持っているとの事でした。

業務内容、開業の動機、助産院をしていて良かったと思う事、今後どのような活動をしたいのかなど、たくさんの事を聞いてくれました。

助産師の仕事に興味を持ってくれた事が本当に嬉しくて、聞かれていない事まで先走ってしゃべってしまいました。2時間近く (^_^;)

母乳分泌のしくみ、授乳のこと、赤ちゃんのこと、卒乳のことまで。彼女たちはキラキラした瞳で真剣に耳をかたむけてくれました。
きっと、初めて聞く話だったと思います。

母乳のことって学校ではあまり習う機会がありません。
当院に来られるママたちの多くは「出産する前に、母乳はすぐには出ないという事や赤ちゃんはよく泣くっていう事などを知っておけば良かった。知っていたらもう少し気持ちが楽だったと思う。」とおっしゃいます。

性教育などで、産後の心身の変化や授乳のこと、赤ちゃんのことなどを伝えられたらなと思いました。また、やりたい事が増えそうです。

インタビューに来くれてありがとう!

私が抱っこしたら赤ちゃん大泣き

先日、相談室にいらっしゃったお母さんは、普通分娩の予定でしたが、急きょ、緊急帝王切開で出産となりました。赤ちゃんは状態が思わしくなく治療のため、お母さんと離れてNICUに入院しました。
直接授乳が出来ないため、お母さんは母乳を搾乳してNICUに運んでおられました。

2週間後、赤ちゃんが退院して直接授乳を試みたところ、哺乳瓶の乳首に慣れてしまったのか、お母さんのおっぱいを嫌がって大泣きするという状態が続きました。赤ちゃんに直接おっぱいを吸って欲しいという事で当院に来院されました。

乳房は、さほど深刻な状態ではなく、時間はかかるかもしれないけれど直接授乳は可能と思われました。自分で出来る乳房のケアや直接授乳の方法などについてお話しました。

帰り際に、お母さんが「実は、赤ちゃんが自分以外の人(実母・夫・親戚の人など)に抱っこされている時は泣かないのに、私が抱っこすると大泣きするんです。私のことをお母さんと認識していないのかと思って悲しくなります。 
帝王切開での出産だったし、直接授乳出来ていないし、母親らしい事をこの子に何一つしてやれていないし。」と涙を浮かべておっしゃいました。

私は、帝王切開だからとか、直接授乳が出来ないとかには関係なく、生まれて間もない赤ちゃんは「お母さん以外の人に抱かれると大人しくて、お母さんに抱かれると泣く事があるんですよ。そのような事で心を痛めているのはあなただけではないんですよ。」と言いました。

このようなことは、2〜3ヶ月くらいまでの赤ちゃんによくみられます。赤ちゃんはお母さんが誰かということはちゃんとわかっています。わかっているからお母さんが抱くと泣くことがあるのです。

どういうことかと言うと、小さい赤ちゃんはお母さん以外の人に抱っこされたり、かまわれたりすると、「この人は誰かな?何かされるのかな?ちょっと怖いから今は黙っていた方が良さそうだぞ。」というふうに思って、緊張して身を硬くします。この様子が大人の私たちからは、おとなしくしているように見えるのです。(私たちでも自分より身体の大きな人に、いきなり大きな声で話しかけられたり抱きつかれたりしたら、ビックリしますし怖いですよね。身動き出来ずに固まってしまって声も出せない事もあるでしょう。)

実家や自宅などでお母さんが赤ちゃんを抱っこしても泣きやまない時に、夫や実母らが抱っこすると、とたんに泣きやむ事が多いです。
お母さんはその様子を見てショックを受けます。 そしてこう思います。
「私の抱っこが嫌なのかな?実母や義母は育児経験があるし抱っこの仕方が上手だから?でも夫は抱っこは上手じゃないのに、何で?」
「私のことお母さんって思っていないの?赤ちゃんを泣きやませられない私ってお母さん失格?」と思って深く落ち込みます。

でも、赤ちゃんはお母さんは誰かという事はちゃんと分かっています。だって、長い間お腹の中で、お母さんの匂い・お母さんの息遣い・お母さんの足音をお腹の中で感じ取っていたのですから。

赤ちゃんはお母さんの事が大好きです。一番安心出来る人なのです。赤ちゃんは、お母さんに抱っこしてもらっていると安心して自分の気持ちを表現出来ます。お母さんに対しては泣きたいときは思いきり泣けるのです。甘えてわがままが言えるのでしょうね。だから、落ち込まなくてもいいのです。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は 笑う赤ちゃん2-1024x690.jpg です

そして、この「お母さんが抱っこすると泣く」という事は、いつまでも続きません。
そのうち、「お母さんが抱っこすると泣きやむ」ようになります。 大人たちはそれを「人見知りが始まった」と言いますが、「人見知り」はもっと早い時期、生まれたての頃にすでにしているんですよ。

このことで悩んでいるお母さん方は多いです。私の相談室ではよく聞きます。 でもこのような悩みがあるという事はあまり知られていないようです。 
それはなぜなのか?
こんなことで悩んでいるのは自分だけかなあと思ってしまったり、誰かにうちあけても「そんな事初めて聞いたわ」などと言われたら余計に落ちこんでしまうので、相談出来ないからかなと思います。

私の相談室にやって来る小さい赤ちゃんたちは最初のうちは私のことを警戒しているのかあまり泣きません。でも、何回か来るうちに家と同じようによく泣くようになってくることが多いです。安心してくれているのかな?と思ってちょっと嬉しくなるんですよ。

だから、赤ちゃんに泣かれても気にせずに自信を持って抱っこしてくださいね。

☆このブログの文章を動画にしています。↓↓↓
https://youtu.be/s1dD0BRV37w
ご興味のある方はどうぞご覧ください。

乳房を押しながら授乳する?

おっぱいが詰まってシコリが出来たり、乳腺炎になった時などに、乳房のシコリの部分を強く押したり、揉んだり、しごいたりしながら授乳しているという方はよくいらっしゃいます。

確かにシコリの部分を押す事で溜まっている母乳を飲んでくれて、シコリが小さくなる事もありますが、力を入れすぎると乳腺を傷めてしまい炎症が増強されて乳腺炎を悪化させる事が多いです。強く押しすぎて青あざが出来ている方もいらっしゃいます。

シコリや乳腺炎で痛い時はとても不安になりますので、ついつい力を入れてしまいがちですが、乳房は女性の身体の中でも特に敏感なところでデリケートなので、そっと手を当てて軽く押さえる程度にしましょう。お肌のお手入れをする時のような手つきで優しく扱うことが大切です。お顔は揉んだり、しごいたりしないですよね。そんな事をしたらシワが出来てタルミそうですし。

シコリの部分を押すよりも、乳房を下方から(アンダーバストのところ)を手のひらで軽く持ち上げながら授乳すると、赤ちゃんはお口に乳房の重みがかからなくなって飲みやすくなるためシコリが取れやすいように思います。
この時も力いっぱい持ち上げないようにしましょう。くれぐれも優しくしてくださいね。

おっぱいトラブルと食事について

母乳育児をしていると、「おっぱいのトラブル」に遭遇することがあります。

おっぱいの先の痛み、乳房にシコリが出来て痛い、乳房が痛いなど。

とても辛い事です。
そんなトラブルの原因は何でしょうか?

多くのママたちは食べたものが悪かったと思っていらっしゃるようです。

「〇〇を食べたから乳腺炎になった。〇〇を食べたから白斑が出来た。」などなど。

確かに食べ物が原因の事もありますが、トラブルの原因は「授乳」にもあります。

「おっぱいの先に負担をかけるような授乳をしている」と乳房トラブルになりやすいのです。

負担のかかる授乳にはいくつかあります。
そのひとつが「吸わせすぎ」です。

今日はその「吸わせすぎ」についてお話します。

「吸わせすぎ」には、

「長い時間吸わせ続ける」

「頻回に吸わせる」

などがあります。

ママたちはおっぱいは吸わせれば吸わせるほど、おっぱいの出るところ(排乳口)の開通が良くなると思っていらっしゃるようですが、限度を超えると全く逆の結果になる事があります。

吸わせすぎる事によって、おっぱいの出る排乳口周辺が傷んでしまい、排乳口が狭く細くなり詰まりやすくなります。場合によっては白斑が出来る事もあります。

そうなってしまうと、ちょっと甘いものなどを食べすぎただけで排乳口が詰まってしまい、出られなくなった母乳が乳房内に残って「シコリ」などのトラブルを起こしやすくなります。

長い時間吸わせる、頻回に吸わせるなどをしすぎない事で、それほど食事を我慢しなくてもトラブルを起こしにくくすることが出来るのです。

私は開業してから授乳中の食事についてママたちに細かくお話ししていました。

けれども、食事を頑張って我慢していてもトラブルを繰り返すママたちは多かったですし、食べられないということはとても辛い事でありストレスにもなっているようでした。

そんなママたちを見て、「食べたいものを食べてもおっぱいトラブルを避ける方法はないのか?」を考えてきました。

当院にいらっしゃった多くのママたちに協力してもらい試行錯誤の結果、「おっぱいの先に負担のかからない授乳」をすることで、おっぱいトラブルをある程度防ぐ事ができるとわかりました。

やみくもに食事を制限するだけでは、トラブルが解消されないだけでなく、ストレスもたまってしまいます。栄養不足となってトラブルを繰り返したり長引いたりする事もあります。

授乳は毎日何回もする事です。

毎日何回もすることはそのやり方が大切です。

例えば、姿勢・歩き方が健康に影響を及ぼすように。

おっぱいの先に負担のかからない授乳をすればトラブルが防げるだけでなく身体にも気持ちにも良い影響があります。

過度の食事制限をしなくても楽しい母乳育児が可能となるのです。